『孤独を見つけた』

駆けているときに
不意に孤独の背姿が視界に入ってきた
孤独は道端で誰かの帰りを待つように懸命に吼えていた
中空に投げ出された声は、静寂の壁に反響しこだました
壁は世界を別つものとして屹然としていた
別たれた世界は死と静寂によって監視されていた
見つけられた孤独は何故見つけられたのか疑問に思っているようだった
 君から出来るだけ遠くに行こうとしていたのに、世界は丸いから
 いつも元の場所に戻って来てしまうんだ
 でも世界はいつも改変されているから、いつも同じとはいかないがね
まるで童謡のような口調だった
そこからはどこか懐かしさが漂っていた
 少しだけ話そうよ 随分待ったんだろ
 もう一度言うが僕は君から出来るだけ遠くへ行こうとしていたんだ
 何も好き好んでこんな場所にいる訳じゃないよ
 でも、君と会うのはどれくらいぶりになるんだろう
 僕にも少しは話せることがあるといいけど
孤独は歌うように話し、身振りが大きかった
まるで踊っているようだった
 君は僕の影なんだろ
 いつも君の存在を感じてしまうんだ どこにいる時も
 それはそうだとも言えるし そうじゃないとも言える
 僕と君とはまるで異質なものだということは分かって欲しい
 君はタバコを吸うだろ
 僕は吸わないんだ
 永久にそれは決められたことなんだ
 永久に決められたことなんてあることが不思議だよ
 不思議、不思議って言う感情は僕にはないのさ
 全ては決められていること、不朽の真理なのさ
 タバコを吸わないことだけで大袈裟だな
 真理って言うのは大袈裟なものだ
時が吹いて頬を撫ぜていく
それは穏やかでもあるし
荒々しく強奪されているようでもある
犬が吼えている
静寂に少しだけ色をつけるように
鳥が飛ばない
早足で駆けていく
それはこの空間に咲いた孔から漏れる気泡のように
それは夕べテレビを夕食を食べながらの怠惰とは違う
これは非現実の怠惰だ
 君たちにはある程度の僕が必要なんだ
 僕はそうは思わないがね
 君は全くの味気ない生肉を食べたくはないだろ
 僕は火であり、ブラックペッパーであり、ソースなんだ
 それでも僕は、君のことが嫌いだね
 僕は嫌われている。人は僕の必要性なんか気にも止めないんだ
 僕は君に散々な目に遭わされているからね
 そうか、それはどうも、僕はただ君たちから遠くに行こうとしているだけだけどね
 君のおかげで半日も壁を見つめていたこともある
 それに天井に不思議な絵を見たこともあるよ
 君は言葉を殺しているんじゃないのか
 寧ろ僕の中では言葉は溢れているけどね
孤独は虚空を見上げた
睫毛が長くて、その奥の目は透きとおって泉のようだった
 君に会ったらこれだけは言おうとしていたんだ
 寂しさは孤独とは違う
 孤独とは僕のことであり
 生命感に溢れているものだということをね
 それは思いもしなかったな
 じゃ、僕からも一言
 何だい
 君と話せて良かった
 そうか、光栄だね
孤独は、僕との反対方向を向くと
胸を張って歩き出した
 また、会えるかな
 君が会いたいと思えばいつでも会えるよ
吼えていた犬は、今は我武者羅に餌をほお張っている
何もかも色を取り戻したようだった

inserted by FC2 system